プロローグ:バーに入れなかった人間の話
告白する。
28歳になるまで、私はバーに入ったことがなかった。
正確に言うと、入ろうとしたことは何度もあった。
天神や中洲の夜、友達と歩いていて「あの店、入ってみる?」という話になる。ガラス張りの扉の向こうに、薄暗い照明とカウンター席が見える。バーテンダーらしき人が、静かにグラスを磨いている。
「なんか、敷居高くない?」
毎回そう言って、結局入らなかった。
「ドレスコードとかあったら恥ずかしい」「何頼めばいいかわからない」「値段が見えない店が怖い」「話しかけられたら何を答えればいいんだ」
理由なんていくらでも作れた。
要するに、バーというものが怖かった。
でも去年の秋、初めてバーというものに足を踏み入れた。
その場所が、sound bar brickだった。
第一章:「バー怖い」の正体
なぜ、バーが怖かったのか。
改めて考えると、ひとことで言えば「正解がわからない場所」だったからだと思う。
居酒屋には、メニューがある。写真付きで、値段が書いてある。「とりあえずビール」と言えば何とかなる。テーブルに座って、店員さんを呼べばいい。
でも、バーは違う。
メニューが渡されないこともある。カウンターに座ること自体、なんか緊張する。バーテンダーさんとどんな距離感で話せばいいかわからない。お酒の知識がないと恥をかくんじゃないかと思う。
「大人の社交場」というイメージが、勝手にハードルを作っていた。
「私みたいな人間が入っていい場所なのか」という、漠然とした不安。
そういう感覚、私だけじゃないと思う。
天神の夜をうろうろしながら、バーの前で何度も「今日じゃなくていいか」と引き返した人は、きっとたくさんいる。
第二章:背中を押してくれたひとこと
きっかけは、職場の先輩・さとこさんだった。
飲み会の帰りに「もう一軒どう?」という流れになった。
先輩が「良いバー知ってるんだけど、行ってみる?」と言った。
「バー、ですか」
「大丈夫大丈夫。初めてでも全然気まずくない店だから」
「初めてでも気まずくない」という言葉が、刺さった。
私が心配していたのは、まさにそこだったから。
「じゃあ、行きます」
その日、人生で初めてバーに入った。
第三章:扉を開けた瞬間のこと
大名のビルのエレベーターを上がり、扉の前に立った。
中から音楽が聴こえた。
「良い音がする」と先輩が言った。
扉を開けた。
最初に感じたのは、**「あ、怖くない」**という感覚だった。
照明が柔らかい。音楽が流れている。スタッフさんが「いらっしゃいませ」と笑顔で迎えてくれた。
圧迫感がない。審査されている感じがない。
「何飲みますか?」と聞かれた。
「えっと、何があるんですか」と素直に言った。
スタッフさんは嫌な顔ひとつせず、今日のおすすめを丁寧に教えてくれた。
「お酒、何が好きですか? 甘め? スッキリ系?」
「甘めのが飲みやすいかもです」
「じゃあこれが合うと思います」
スっと出てきたグラスを一口飲んだ。おいしかった。
「あ、これでいいんだ。」
身構えていたものが、するっと解けた気がした。
第四章:カウンターという場所の不思議
席はカウンターだった。
バーのカウンターに座るのも、もちろん初めてだった。
最初は少し緊張した。真正面ではなく、斜め前にスタッフさんがいる。何か話さないといけないのかな、と思った。
でも、そんなことはなかった。
音楽が流れている。それだけで、沈黙が気まずくない。
しばらくして、自然とスタッフさんが話しかけてくれた。
「brickは初めてですか?」
「はい、バー自体が初めてで」
「そうなんですね。どうですか?」
「なんか、思ったより全然怖くなくて。もっと敷居が高いと思ってました」
スタッフさんが笑った。
「バーって、敷居高いイメージありますよね。でもここは普通に来てくれたら嬉しいんで」
「普通に来てくれたら嬉しい」
その一言で、完全にリラックスした。
歓迎されている。ここにいていい。
その安心感が、カウンター越しの距離から伝わってきた。
第五章:音楽に、気づいたら聴き入っていた
2杯目を飲みながら、ふと気づいた。
私、ずっと音楽を聴いていた。
流れてくる音楽が、ただのBGMじゃなかった。
さっきとは違う曲になった。少しジャズっぽいリズム。でも全然難しくない。自然と体が揺れる。
「これ、何の音楽なんですか?」
先輩に聞いた。
「わかんない、でも良いよね」
先輩もスマホを出して調べ始めた。
こういう「わからないけど良い」という体験が、バーにはある。
ジャンルとか、アーティスト名とか、そういう知識がなくても、「良い」と感じる感覚は誰にでもある。
その感覚を、ちゃんと呼び起こしてくれる音がbrickにはあった。
第六章:帰り際に気づいたこと
2時間ほどいて、帰ることにした。
会計は思ったより全然高くなかった。
メニューのないバーは値段が不透明でぼったくられそう、という私の思い込みは、完全に崩れた。
エレベーターを降りて、大名の夜風を浴びながら先輩と歩いた。
「どうだった? バー初体験」
「めちゃくちゃ良かったです。もっと早く来れば良かった」
「でしょ。なんで今まで来なかったの」
「怖いと思ってたんですよね。正解がわからなくて」
先輩が笑った。
「バーに正解なんてないよ。飲んで、音楽聴いて、それだけでいいんだから」
「飲んで、音楽聴いて、それだけでいい。」
その言葉が、28年間私がバーに抱いていた「怖さ」を、きれいに消してくれた。
第七章:「また来たい」が「また行こう」に変わるまで
あれから、brickには何度も行っている。
2回目は、大学の友人を連れていった。
「バー? なんか緊張するんだけど」
「大丈夫、ここは全然怖くないから」
自分がかつて言われた言葉を、今度は自分が言っていた。
友人は、最初の30分こそ少し固かったけれど、音楽が流れる中で2杯目を飲む頃には完全にリラックスしていた。
「なんか良いね、ここ」
「でしょ」
「また来たい」
その言葉を聞いた瞬間、私が最初に連れてきてもらった夜の気持ちを思い出した。
「また来たい」が自然と出てくる場所が、本当に良い場所だ。
第八章:「バーデビュー」にbrickを選んでほしい理由
あれから、何人かをbrickに連れていった。
そのたびに確信することがある。
brickは、バーが初めての人に最も優しい場所のひとつだ。
なぜか。
音楽が流れているから、沈黙が気まずくない。バー未経験の人が一番怖いのは「何を話せばいいかわからない」という沈黙の恐怖だ。でも、音楽があれば「この曲良いですね」というひとことで十分つながれる。
スタッフさんの接し方が、絶妙だ。干渉しすぎない。でも、困っていたら必ず気づいてくれる。「何を頼めばいいかわからない」という状態で迷っていれば、さりげなく声をかけてくれる。
お酒の知識がなくてもいい。「甘め」「スッキリ」「あまり強くないもの」という感覚だけで話せる。知識をひけらかすような空気が、一切ない。
値段が明確で安心できる。初めてのバーで「いくら取られるんだろう」という不安を持たずにいられるのは、大きい。
「初めての人を、笑わない場所」がbrickだと思う。
エピローグ:あの扉の前で引き返してきた人へ
天神の夜、バーの前で立ち止まって、引き返したことがある人へ。
「なんか敷居が高そう」「知識がないと恥ずかしい」「一人で入るのは無理」
そういう気持ち、めちゃくちゃわかる。
私も28年間、そうだったから。
でも、sound bar brickの扉を開けた瞬間に気づいた。
バーって、こんなにも優しい場所だったんだ。
知識は要らない。正解も要らない。ドレスコードも要らない。
音楽を聴いて、好きなものを飲んで、ただそこにいる。
それだけで、十分な夜になる。
もし今、「バー行ってみたいけど怖い」と思っている人がいたら。
一番最初に行く場所に、brickを選んでほしい。
きっと、「もっと早く来れば良かった」と思うから。
そして次の日には、誰かを連れていきたくなっているはずだから。
sound bar brick|福岡市中央区大名 〒810-0041 福岡県福岡市中央区大名2-1-14 天神アッシュ5F TEL:092-406-9070 Instagram:@brickfukuoka 公式サイト:https://brickfukuoka.jp/
コメント